写真では完璧に見えるロケ地が、撮影当日には使えないことがあります。アングルが取れない、騒音が手に負えない、午後になると光が変わる、持ち主から新しい制約が出てくる。そしてそれを、スケジュールを確定させたあとに知ることになります。ロケハンとは、こうした問題が撮影日を奪う前に見つけるための作業です。
ロケハンは「場所を見に行く」ことではありません。制作環境としてその場所が成立するかどうかの体系的な評価です。きちんとやる手順を示します。
行く前に
現地を訪ねる前に、二つのことを済ませておきます。
その場面が空間に何を要求しているかを定義する。 「オフィス」「台所」ではなく、この場面がその空間に求めるものは何か。段取り上、二人の役者がカメラに壁を入れずにすれ違える必要があるか。人物が窓越しに外から見えている必要があるか。場面は、内側から見えるドアから誰かが出て終わるのか。こうした空間的な要件は、そうでなければ適当に見えるロケ地の大部分を除外します。行く前に書き出してください。
基本は遠隔で確認する。 衛星写真、ストリートビュー、地域の騒音条例、許可の要否、所有者の情報は、現地に足を運ぶ前に調べられます。交通量の多い経路沿いの場所には恒常的な環境音があります。行政の許可が要る場所は三〜六週間の準備期間が必要かもしれません。個人ではなく事業者の所有なら、固有の保険要件があります。訪問に時間を使う前に知っておいてください。
現地で評価すること
自然光。 撮影予定と同じ時間帯に行くこと。朝の光が美しい部屋が、午後には暗い箱かもしれません。窓の向き、直射日光が入る時刻、そして今ある光で成立するのか大量の補助が要るのかを記録します。正確さが要るなら方位磁針を持っていきましょう。
音の環境。 十分間、耳を澄ませてください。空調、交通、近隣の工事、着陸経路の飛行機、隣の店舗。ボイスメモを録って再生してみる。耳が濾していてマイクは拾う環境音が見えてきます。うるさい場所が必ずしも使えないわけではありませんが、騒音にかける時間と費用の見積もりは現実的である必要があります。
電源。 分電盤はどこか。何アンペア使えるか。照明部は建物の電源で回せるか、発電機が要るか。発電機の設置場所も問題です。セットまでケーブルを引けて、なおかつその音が録音を汚さないだけの距離が要ります。可能なら持ち主か建物の管理者に電気の図面を求めてください。
天井高。 低い天井は、正しく見えるロケ地がカメラで成立しない最も一般的な理由のひとつです。俯瞰を撮る、あるいは立った人物の全身を入れるなら、カメラと照明のための余地が要ります。多くの住宅の標準天井高は 2.4 メートルで、快適な制作環境には足りないことが多い。印象ではなく実測値を記録してください。
駐車と搬入。 スタッフはどこに停めるのか。機材車はどこまで寄れるのか。搬入口はあるのか、それとも階段で担ぎ上げるのか。手運びが大量に発生する場所は、すべてのセッティングを遅らせ、時間を食います。複数階での撮影ではとくに効いてきます。
許可と制約。 外観の撮影を禁じる場所、制作の音を出してよい時間を制限する場所、特定の保険を要求する場所があります。これらは直接尋ね、回答は書面でもらってください。許可について「行ってから何とかする」は大きなリスクです。
何を撮っておくか
ロケハンのたびに、完全な写真記録を残します。撮るもの:
- 使う可能性のあるすべての部屋の四隅
- すべての窓からの眺め
- すべてのドアと、検討中のカメラ位置からの見え方
- 建物の外観を、あらゆる接近方向から
- 駐車、搬入、スタッフの待機場所
- 分電盤と、ブレーカーのラベルが読める一枚
- 気になったものすべて。騒音源になりそうなもの、扱いにくい構造物、天井のディテール
保存する前に、ロケ地名・日付・時間帯をラベルに書いてください。朝に撮ったロケハン写真は、同じ場所を午後に撮ったものとまったく違って見えます。最終判断のときに、どちらがどちらか分かっている必要があります。
判断の枠組み
ロケハンを終えたら、三つの基準で評価します。
演出上の適合: 場面に対して見た目が正しいか。空間の形は段取りが要求するものか。物語の世界に感じられるか。
制作上の成立性: ここで物理的に働けるか。電源、音、駐車、搬入。これらの問題は予算内で解けるか。
実際の費用: この場所を使えるようにするのにいくらかかるか。ロケ費だけでなく、追加の機材、スタッフの時間、段取りを含めて。発電機と防音ブランケットと機材部の三時間を余分に要求する「無料」の場所は、実際には無料ではありません。
三つとも良い場所は強い候補です。二つが良く一つが悪い場所は、その欠点を埋められるかどうかの判断が要ります。二つ以上が悪い場所は、とくに欠点のひとつが演出上の適合なら、費用や便利さに関わらず見送るべきです。
複数の候補を管理する
重要なロケ地で起きる場面については、どちらかに決める前に最低二つ当たってください。予備の候補には二つの働きがあります。第一候補との交渉での立場を強くし、第一候補が流れたときにスケジュールを守ります。
plotwell のロケ地管理画面では、ロケハンのメモと画像を各ロケ地に直接ひもづけられます。二つの候補の最終判断をするとき、関係する情報(写真、メモ、ベースキャンプからの距離、許可の状況)が一か所にあると、比較は速く、確かになります。
よくあるロケハンの失敗
一人で行く。 撮影監督を、関係するなら美術も連れていってください。あなたが見落とすものを見ます。撮影監督は照明の課題を即座に見積もります。美術は装飾の制約を即座に見ます。ロケ地に対する監督のビジョンとスタッフの実務的な評価は、決める前に対話しておく必要があります。
一度しか行かない。 場所は時間帯、曜日、天気で違って見えます。月曜の朝に予定された場面を日曜の午後に見に行ったなら、平日にしか行われない隣のブロックの工事を知らないままかもしれません。
書類なしで決める。 持ち主との口約束はロケ契約ではありません。日程、許可された時間帯、立ち入れる具体的な範囲、そして制約を記した署名入りの契約を取ってから、スケジュールに載せてください。
丁寧なロケハンに使った時間は、撮影日に問題を解くのに使わずに済んだ時間です。ロケハンで見つけた問題は、撮影日ではなく午後一回で済んだ問題です。
